恐るべき漢方薬
『栄光』207号、昭和28(1953)年5月6日発行
吾々が一般の人に薬毒の恐ろしさを話す場合、聞く方の人は薬毒は西洋の薬に限るように思っており、漢方薬はほとんど薬とは思わないくらいであるが、これは大変な誤りである。というのはむしろ薬毒は漢方薬の方が多いくらいである。なるほど薬そのものとしては洋薬よりも弱いが、何しろ漢薬の方は量が頗(すこぶ)る多い。昔から漢薬は土瓶(どびん)に一杯煎(せん)じて、持薬(じやく)として毎日飲むどころか、お茶の代りに服(の)む人さえあるのだから、洋薬の何十、何百倍にも上るであろう。
そうして漢薬の種類も相当あり、中でも私の経験によればゲンノショウコが一番猛毒で、この薬を沢山飲んだ人は、浄化の場合実に執拗で、除っても除っても後から溜ってくるので、衰弱死に至る、実に恐ろしいものである。次はどくだみも中々毒が強く、まずこの二つを多く飲んだ人は、余程注意しなければならない。右以外の薬は大体同じようであるが、今一つ名前は分らないが、真黒で飴のような漢薬があり、これを飲んだ人は偶(たま)にあるが、この中毒も執拗で治り難いものである。何よりも漢薬中毒の多少は、顔色で一番よく分る。多く飲んだ人程顔色が蒼白で、よく青ぶくれというのがこれである。また漢薬中毒者は女性の方が多く、花柳界にいた人は特に多いようである。これは昔から婦人病によく効くとされているからであろう。それから便秘によく効く薬で、奇応丸(きおうがん)という丸薬があるが、私は以前これを二十数年毎日飲んだ人で、腎臓結核となり、医師から見放された人を扱った事があるが、何しろ余りにその毒が多いので、到頭(とうとう)駄目になった経験がある。これは誰も知っている事だが、中国人には青黄色い顔の人が多いのは、漢薬中毒のためであろう。