―― 岡 田 自 観 師 の 論 文 集 ――

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世界夢物語(二)

『地上天国』45号、昭和28(1953)年2月25日発行

 私は栄光新年号に、標題のごとき論文をかいたので、信者は誰も読んだであろうが、最近に至ってアイゼンハウアー元帥は、着々としてあらゆる積極的な手を打ち始めたのは、外電によって段々分って来たが、それについて言いたい事は、この前の夢物語にはかかなかったヨーロッパ方面についてである。
 ごく最近私の懇意にしている相当名の知れた洋画家某氏が、巴里(パリ)に二カ年滞在していたのが、帰朝早々訪ねて来たので、ヨーロッパ方面の事情について色々訊いて見たが、私の想像と余りにピッタリしているので驚いたのである。
 というのは私がいつもいうごとく、肝腎な英国も仏蘭西(フランス)も、国民の元気のない事は本当とは思えない程である。たとえば両国民一般の思想は、いつ国がどうなろうと困らないように用意しなければならないとして、頻(しき)りに金を貯蔵しているという話である。その方法としては、金の針金であって、太い細い幾種類にも作られたものが、秘密に売買されているという事で、その額は大変なものだそうである。ではなぜなぜ針金に作るかというと、売買の際金塊では細かくするのに手数が掛かるが、針金なら鋏(はさみ)一丁で、長い短い自由に切れるからで全く驚くの外ないのである。また新聞などにも出ている通り、勤労意欲が乏しく、遊ぶことのみ考えており、どこもかしこも娯楽場は押すな押すなの景気であるという事である。そうしてこれもよく知られている英国などの食物不足は非常なもので、日本などとは比較にならない程だそうである。ではなぜドシドシ田畑を耕して作らないかと訊くと、その答がまた吾々には分らない。
 というのは日本人ならちょっとした空地でも、すぐに鍬(くわ)を入れ種を播くが、英国人はそんな事は更になく、何でもかんでも政府の手で外国から輸入する事のみ考えているのだそうで、同国人の意気地のなさ加減は何といっていいか言葉はない。それについて一昨年の日本綿布が英国を凌駕(りょうが)して、世界一となったというにみても分る通り、日本は綿布の生産制限をしているにかかわらず、英国ランカシャは全能力を発揮しても敵(かな)わないのだから、いかに国民の活気がないかが分るであろう。そんな訳だから軍備に対しても熱のない事おびただしく、アメリカが随分金を貸し尻を叩いても、思うように躍らないにみてもよく分る。最近国務長官ダレス氏が欧州へ行き、各国を次々活(かつ)を入れるべく廻ったのも無論そのためである。
 ところがこのような英仏闘志のない事が、将来の重大問題を孕(はら)んでいる事に気付かねばならない。それはこの情勢を見越して、クレムリンは北叟笑(ほくそえ)んでいるであろうし、それと共に予定通りの作戦計画を進めているのはもちろんで、時機到れば大々的ヨーロッパ侵略の挙に出るであろう。しかも成功の可能性は多分にあるとみねばなるまい。しかもソ連の狙い所は言うまでもなく英国であるから、英国の運命こそ全く風前の灯といえよう。その事を考えただけでも、米国は気が気ではなく、何としても欧州を思い切って強固にしなければならないと焦っている訳である。しかもここに重大問題がある。それはこれから米国は中共を何としても打倒すべく大仕掛な作戦に取掛る以上、この消耗も生易(なまやさし)い物ではあるまいから、予定通り中共を敗(やぶ)り、朝鮮戦争は一段落付くとしてもその後が大変である。それは流石(さすが)の米国の戦力も相当弱体化するであろうからで、万一の場合欧州援助に対し相当困難を覚悟せねばなるまい。そこをつけ込んで、ここにソ連は充分蓄えた戦力をもって、欧州に挑みかかるのは火を睹(み)るよりも明らかである。これこそいよいよ第三次戦争の開幕であって、世界の檜舞台においての龍虎相争う大惨劇となり、いずれは驚天動地の場面出現も左程遠くはあるまいと思う。この事については今はこれだけにしておいて、情勢の進展につれてかく事にしよう。


(注)
アイゼンハウアー元帥(Dwight David Eisenhower、1890-1969)
第三四代アメリカ合衆国大統領(在任 1953-1961)アイゼンハワーの愛称。第2次世界大戦時の連合軍最高司令官として、日独伊の枢軸国を破った。戦後は朝鮮戦争・インドシナ戦争を解決。NATO軍最高司令官として西ヨーロッパの反共軍事体制を整えた。共和党。