―― 岡 田 自 観 師 の 論 文 集 ――

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素人菜園に就て

『自然農法解説』昭和26(1951)年1月15日発行

 前項までは、専門家のみを対象としてかいたのであるが、最後に素人栽培、すなわち家庭菜園についてかいてみるが、何しろ素人栽培としても、肥料は糞尿を多く使わなければならないので、馴〔慣〕れない素人が糞尿を扱うとしたら、実に堪えられない苦痛である。しかも撒く時はもちろん、その後幾日かの間は、部屋の中まで臭気が流れ込んでくるのだから、絶えず不快に悩まされ、実に非衛生的である。殊に飯時などときては、考えただけでもウンザリする。そんな苦痛をしても大いに効果があるとすれば我慢もするが、実はそれが反って成績不良の結果となるのだから、恐らくこんな馬鹿な話はあるまい。今日まで知らなかったからとは言いながら、余りの無智に呆れるのである。
 自然農法によれば、汚い臭い思いは全然なくなり、清潔で衛生的で、作物の出来がよく、量も多く、その美味なる事驚く程である。しかも害虫の心配もないばかりか、蛔虫の危険もなく、第一葉色にしても、茎の形にしても実に今までの有肥のものより美しい。従って自然農法を始めると、毎朝畠弄(いじ)りが実に楽しくなる。今までは畠弄りなど楽しみよりも、気味が悪いのが先に立つ、汚物が撒いてあると思っただけでも、その上を歩く気にはなれない。
 そうして、素人栽培にはこういう事がよくある。それは馬鈴薯(ばれいしょ)など実付きが悪いとか、実が大きくならないとか、トマトや茄子(なす)など、花落ちが多かったり、スのある大根が出来たり、胡瓜(きゅうり)など根虫が湧いて枯れるとか、漬菜(つけな)類など完全な葉はほとんどなく、どの葉も穴だらけである。以上いずれも人為肥料のためであるが、それに気が付かないため、素人は肥料が足りないからだと思い、益々多く肥料を与えるから、益々悪くなるという訳で、誰しも本当の原因が判らないから、専門家に訊くが、専門家も肥料迷信に罹っている以上、満足な解答は与えられないので困っている人が、世の中にはいかに沢山あるか知れない。従ってそれらの人達が本農法を知ったなら、いかに救われるか、全く地獄から天国へ昇ったような気持となるであろう。