借金談義
『救世』51号、昭和25(1950)年2月25日発行
私は長い間借金で苦しんだ事はいつもいう通りであるが、借金くらい嫌なものはない、これは大抵な人は経験するであろうが一度借金をすると仲々返せないものである、借金をする時は出来るだけ早く返そうと思うが、さて返せるだけの金が出来ても仲々返せるものではないのが人情である、それで今少し延してその金を働かせ、もっと儲けてから返しても遅くはないと、都合のいい理屈をつけたがる、幸い思い切って一旦返すとすると、先方は信用が加わるからまた貸してもいいような顔をする、そこでこちらも前より高を殖して借りる事になる。
そうして金というものは、入る方は予定と食い違い出る方は予定通りだから期日には返せないものである、という訳で一度コビリ着いた借金は容易に綺麗にはならない、ついには借金のある事が癖のようになってしまう、世間には借金がないと気持が悪いという人さえある、ゆえに一度借金してそれが抜け切ってしまうという人は恐らく十人に一人もあるまい。
今日世界の忌わしい問題は金の貸し借りが一番多いであろう、ほとんど民事の裁判はことごとくといいたい程賃借関係が原因であるそうである、従って、この世の中から紛争を除く第一条件としては出来るだけ賃借をしないようにする事である、但しやむを得ず借りたい場合は、一日も早く返す事で、これをみんなが守るとしたら、いかに明朗な社会となり、お互いの不愉快が減るかは贅言(ぜいげん)を要しまい、今一ついいたい事は、借金は人間の寿命を縮めるという事である、故大倉喜八郎氏はその事を言ってよく戒めたそうであるが、これは全く間違いない言と思うという事は、借金くらい人間の心を暗くするものはないからである、私の経験から言っても借金無しになってからの心は、長い牢獄から出たような気持になったのである。